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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)254号 判決

【事実】

第二 請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五〇年一二月二九日意匠に係る物品を「刈取機用刈取刃」(後に「藁細断機用刃」と補正)とする、別紙(一)の図面記載のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五〇年意匠登録願第五一七六四号)をしたところ、昭和五二年五月二〇日拒絶査定があつたので、同年八月八日審判を請求し、昭和五二年審判第一〇七一五号事件として審理された結果、昭和五八年九月八日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年一一月一六日原告に送達された。

2  審決の理由

(一)  本願意匠の全体の基本的構成は、薄い円盤の外周縁部に沿つて環状凸状わん曲部を設けた略丸鋸刃状のものであり、これらの具体的態様は、前記環状凸状わん曲部は、全体の径に対しやや幅のある断面が浅い弧状のもので、刃部は、その表面(凸面側)外周縁部付近の全周にわたつて一定の幅で斜状に多数切り込みを入れ、鋸歯状を形成し、一方その裏面外周縁部をその弧状方向に対して円盤の平坦面と平行状に切削することによつて周縁端部に略山形状の刃を形成したものである。なお、全体の中心部には五角形の貫通孔を設けている。

(二)  ところで、意匠に係る物品を「藁切用回転切断刃」とする昭和四六年意匠登録願第二一七八号意匠(以下「引用意匠」という。)の要旨は、願書ならびに別紙(二)の図面及び図面代用写真の記載によつて現されたものである。

そして、引用意匠の提示は、投象図法に準じて行われ、その投象された図は、写真による平面図、底面図、これらの斜視図のほか、図面による正面図、断面図、及び前記正面図を利用した文章(意匠に係る説明)によつている。これら図面の縮尺については多少その大小に差異があるが、それ程極端なものではなく、ここに開示された意匠をその内容との関連でみると、その開示のための基本方針は、主として現物を写した写真によつて現すことにし、他に図面及び文章によりこれを充当しているといえるものであり、これらによれば、引用意匠は、次に示すほぼ円盤状のもので、全体像の要旨は平面図、底面図及びこれらの斜視図でほぼ明らかであり、なお断面図によつて明確となり、更に正面図等を合わせ考察すれば、意匠の全容は開示されており、その意匠の要旨は、前記物品の次のとおりの態様と認める。

すなわち、引用意匠の全体の基本的構成は、薄い円盤の外周縁部に沿つて環状凸状わん曲部を設けた略丸鋸刃状のものであり、これらの具体的態様は、前記環状凸状わん曲部は、全体の径に対しやや幅のある断面が浅い弧状のもので、刃部は、その表面(凸面側)外周縁部付近の全周にわたつて一定の幅で斜状に多数切り込みを入れ、鋸歯状を形成し、一方その裏面外周縁部をその弧状方向に対して円盤の平坦面と平行状に切削することによつて周縁端部に略山形状の刃を形成したものである。なお、円盤の中心部には五角形の孔状を貫通させたもので、また仔細に観察すれば前記環状凸状わん曲部の先端周縁は極く僅かに内側に深くわん曲している。

(三)  そこで、本願意匠と引用意匠とを比較検討すると、両者は、意匠に係る物品が略一致し、またその態様においても、前記認定のとおりで、全体の基本的構成及び具体的態様においても略一致し、互いに類似するというほかない。

(四)  請求人(原告)は、引用意匠は、「意匠法第三条第一項柱書の工業上利用することができる意匠に該当しない」として拒絶査定を受けたものであり、①そのため意匠法上の意匠を出願当初から完成していなかつたもので、類似性判断の対象となりえず、②また、図面が不一致、不明確と指摘され、「使用目的」の記載のない出願であるから、意匠全体の構成を把握することができないものであり、その類似判断を誤まらせることが明らかであると主張する。

意匠法上、意匠とは、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「物品の形態」という。)であつて、視覚を通じて認識されるもの(以下「外観」という。)であり(同法第二条)」、登録意匠の意匠権の効力は、「登録意匠及びこれに類似する意匠に及び(同法第二三条)」、その権利範囲は「願書の記載及び添附図面に記載された意匠に基づき定められる(同法第二四条)」、そして意匠登録出願の手続上、意匠の提示は、意匠に係る物品は願書に、意匠に係る形態は主として図面(又は代用写真等)に記載することによつてなされる(同法第六条)。そして、意匠法を実施するために必要な細則を定めた同法施行規則において意匠提示の様式が定められており、意匠が立体であれば、図面は正投象図法により作成した六面図をもつて一組として現す(同規則第二条、様式第五)。したがつて、出願された立体的意匠における「意匠登録の要件(同法第三条)」の解釈等の判断にあたつては、これらの規定に従い前記した図面等の意匠に係る記載を統合しそこに現された当該意匠を知覚把握しその要旨を認識確定することによつて行い、これら意匠認定のための資料には、その意匠に属する分野における通常の知識を有する者がその意匠を理解し、意匠を認識できうる程度に現されていることが必要である。

これらの事項を前提にすれば、引用意匠に係る登録出願は、合法な手続によつてなされ、その内容は前記のとおりであつて、そこに示された投象図(及びこれに代わるもの)の縮尺の比率に一定しない点があり、これが表示されておらず、また使用態様が開示されていなくとも、これら意匠の提示を出願当時のこの種物品分野の技術水準に照らし、総合して合理的に判断すれば、そこに現された物品の形態の本質がわい曲されるものでもなく、物品の形態に係るもの(外観)として表象された意匠が充分に認識され、理解しうるものである。結局、引用意匠は、実質的に意匠法第二条の意匠を構成し、同法上の意匠の適格を有し、かつ同法第三条柱書の意匠登録の対象となる要件を満たすことができる資格を備えていたものであり、したがつて、引用意匠に係る出願は同法第九条第一項に規定されている先願の地位を有するものと認められ、意匠法を施行するうえでの細則に係る様式上の瑕疵を有するかどうかはともかく、引用意匠の審査手続で行われた拒絶理由に基づく手続によつて前記の事実が左右されるものではないから、請求人(原告)の主張は理由がない。

以上のとおりであるから、本願意匠は引用意匠と類似し、最先の意匠登録出願人に係る意匠とは認められず、これを登録することができない。

3  審決の取消事由

本願意匠の「全体の基本的構成」、「具体的態様」及び引用意匠の「全体の基本的構成」、「具体的態様」が審決認定のとおりであることは、認める。

しかしながら、引用意匠は、審査官により、意匠法第三条第一項柱書に規定する「工業上利用することができる意匠」に該当しないことを拒絶理由として、その登録出願の拒絶査定を受け、確定したものであるから、同法第九条第一項に規定する先願の意匠たるの地位を有しない。したがつて、審決が引用意匠を先願意匠として本願意匠と対比したことは、同条同項の規定の適用を誤つたもので違法であるから、取消されるべきである。仮に、引用意匠が意匠法第九条第一項に規定する先願の意匠たるの地位を有するとしても、審決は、本願意匠との対比において類否の判断を誤り、本願意匠を引用意匠と類似するとした点において違法であるから、取消されるべきである。

(一)(1)  引用意匠は、昭和四六年一月三〇日意匠に係る物品を「藁切用回転切断刃」として出願したところ、昭和四九年五月二五日付の拒絶理由通知書で示された次の二つの理由によつて拒絶査定を受けたものである。

① 引用意匠は、次の点で具体的ではないから、意匠法第三条第一項本文に規定する「工業上利用することができる意匠」に該当しない。

(イ) 使用状態を示す参考図が不足する。

(ロ) 正面図と断面図は、縮尺が他の添附図面と一致しない。また、断面図について、断面個所が不定であるし、穴に六角形の線が表れたり歯のきざみが表れたりするのに、それらが表れていない。

(ハ) 物品の使用目的が不明確である。すなわち、脱穀機用か収穫機用か独立したものか、明らかでない。

② 引用意匠は、通商産業省令で定める物品の区分又はそれと同程度の区分によつて出願されていないから、意匠法第七条に規定する要件を満たしていない。

引用意匠の登録出願人は、このような拒絶理由通知を受けたにもかかわらず、指定期間内に意見書も手続補正書も提出せずに放置した結果、昭和四九年九月二日拒絶査定を受け、これが確定したものである。

(2)  審決は、引用意匠は、「図面の縮尺については多少その大小に差異があるが、それ程極端なものではなく」と認定しているが、願書に添附された別紙(二)の図面及び図面代用写真に基づいて引用意匠の直径を測定すると、平面図(写真)では7.9cmであるのに対して、正面図(図面)では14.2cmもあり、この直径比率は、写真意匠に対して図面意匠は約1.8倍の長さを有することになる。このような意匠表現上の差異は、異常であり極端であつて、これをもつて「多少その大小に差異がある」ということはできない。

また、審決は、「その開示のための基本方針は、主として現物を写した写真によつて現すことにし、他に図面及び文章によりこれを充当しているといえるものである」としているが、意匠を正確に開示するのは登録出願人自身の義務であり、しかも審査主義を採るわが国意匠法では、意匠開示のための所定の要件を明確に規定しているのである。だからこそ、引用意匠は前述した理由により拒絶を受けたのであり、登録出願人はこの法定の指示にしたがわなかつたのである。それにもかかわらず、引用意匠と関係のない第三者である原告が、審判において引用意匠の成立を争つているのに、審判官が引用意匠の開示の基本方針なるものを自由に解釈することは許されない。第三者にとつては、願書と願書に添附された図面又は写真に表現されているものが事実のすべてであり、判断の対象となるものである。

したがつて、引用意匠は、昭和四六年一月三〇日に出願され昭和四九年九月二日に拒絶査定を受けこれが確定していることから、本願意匠よりも先の出願であることは認められるが、あくまでも形式的な先願であり、具体的に完成された意匠の内容を含まない形式だけの先願にすぎない。すなわち、引用意匠は、審査の結果意匠法上の意匠としての存在を否定されたものである。意匠法第九条第一項に規定する先願の意匠は、すでに同法第三条に規定する登録要件を具備する意匠をいうものであるから、審決がこのような意匠として存在しないものを先願意匠として引用したことは、同法第九条第一項の規定の適用を誤つたもので違法である。

審決は、「引用意匠に係る出願は意匠法第九条第一項に規定されている先願の地位を有するものと認められ、意匠法を施行するうえでの細則に係る様式上の瑕疵を有するかどうかはともかく、原審で行われた拒絶理由に基づく手続によつて前記の事実が左右されるものではない」と判断しているが、審決の法解釈が正当で、かつ審査基準となつていたならば、引用意匠は拒絶査定を受けなかつたはずである。引用意匠は、単に補正命令を受けたものではなく、登録要件としての工業上利用することができる意匠を構成していないという拒絶理由通知を受けているのである。引用意匠の出願は、意匠法第六条第二項及び第四項に定める方式に違背した重大な瑕疵ある出願であつたにもかかわらず、単に「意匠法を施行するうえでの細則に係る様式上の瑕疵」の問題であるとの認識に基づいてなされた審決は違法なものであり、取消されるべきである。

(3)  被告は、引用意匠について、別紙(二)の平面側斜視図と底面側斜視図を基準にすれば、各図形の縮尺に著しい差異はないから、審決の認定に誤りはないと主張するが、そのような見解が特許庁の審査、審判において通用するならば、引用意匠は拒絶されず登録されていたはずであつて、被告の主張は、特許庁の審査、審判の実際と整合しない。引用意匠は、すでに意匠法第三条第一項柱書にいわゆる工業上利用できる意匠に該当しないとして拒絶査定を受けた意匠であるから、今更そのように主張したところで無意味でしかないし、許容されるべきことではない。

また、審決における引用意匠開示の基本方針についての被告の主張は、実務の説明にすぎないが、ただ図面において各図が同一又は対称に現れる場合には、意匠登録願書に添附の図面の記載において、これらを省略できることも広く知られているという説明は不正確であつて、前記のような場合は、当該図面を省略することができるが、その省略の旨は願書の意匠の説明の項に明記することになつていると、いうべきである。

いずれにしても、意匠法第三条第一項柱書の要件を満たしている意匠とは、工業上利用性、意匠性、創作性、新規性の四つの要件を具備するものをいい、それ以外の要件は問題にならないのであつて、引用意匠の拒絶理由と明らかに矛盾している審決の判断は、違法というべきである。

(二)(1)  本願意匠と引用意匠との構成態様には、次のような差異がある。

(イ) 円盤の外周縁部に形成される切刃は、本願意匠にあつては、別紙(一)の底面図(平面図及び左右側面図についても同様である。)から明らかなように、円盤の材厚巾の全面にわたつて形成されているのに対し、引用意匠にあつては、別紙(二)の正面図から明らかなように、円盤の材厚巾の下側2/3の面に限られ、上側1/3の面は余白として残されている。

(ロ) 円盤の外周縁部に形成される切刃の形状は、本願意匠にあつては、別紙(一)のA―A線断面図から明らかなように、その切刃の先端部が円盤本体の垂直面と一致しているのに対し、引用意匠にあつては、別紙(二)の断面図から明らかなように、その切刃の先端部が円盤本体の水平面よりも下方に突出している。

藁細断機用刃や刈取機用刃のような物品の場合は、その刃全体の形状が円盤形であること、切刃がこの円盤の外周縁部に形成されていること、中心軸孔が六角形であること等はすべて物品が固有する属性であるから、物品の構成態様はこれらの属性に左右されて決定される。したがつて、右のような本願意匠及び引用意匠に係る物品が固有する基本的形態を除いた形態部分に、各意匠の創作の要部があると認めるべきである。してみると、前記切刃の形成範囲と切刃の形状についての両意匠の相違は決して微差ではなく、引用意匠に対して本願意匠は前記のような構成態様に創作性を具備しているものであり、その外観形態から受ける印象も異なるものであるから、本願意匠は引用意匠に類似しないというべきである。

以上のとおり、審決は、本願意匠の創作の要部についての把握を誤つた結果、本願意匠を引用意匠と類似すると誤つて判断したものであり、違法であるから取消されるべきである。

(2)  被告は、原告がこの種意匠に係る物品の固有する属性なる抽象的な概念を独自に認定したと主張しているが、論理学上、一つの物品の概念は、その物品を存在づけている多数の属性から成り立つているという極めて当たり前のことを述べているにすぎないのであつて、このような見解が何故独自の認定であつたり、主観的な評価になるのか、理解できない。また、被告は、これらの具有すべき形態が必ずしも一義的に一定の範囲に限定される必然性のあるものではなく、種々の可変性、選択性のあるものであると主張するが、原告は、別に、物品が具有すべき形態が一義的に一定の範囲に限定される必然性のあるものなどとはいつていないのであつて、種々の可変性や選択性という意味が創作性の意味ならば、もちろん創作の余地は十分認めている。結局、被告の主張は、物品が物品として種々の属性をもつて成立している基本的形態と、その基本的形態をふまえて創作される創作的形態(要部)とを区別して、意匠の類否の判断をしていないというべきである。

【理由】

1請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

2そこで、原告の主張する審決の取消事由の存否について判断する。

(一)  引用意匠は、本願意匠の出願前である昭和四六年一月三〇日意匠に係る物品を「藁切用回転切断刃」として登録出願されたが、昭和四九年九月二日原告主張(審決の取消事由(一)(1)記載)の拒絶理由により拒絶査定を受け、これが確定したことは、当事者間に争いがない。

原告は、引用意匠は、意匠法第三条第一項柱書に規定する「工業上利用することができる意匠」に該当しないことを拒絶理由としてその登録出願の拒絶査定を受け、確定したものであるから、同法第九条第一項に規定する先願の意匠たるの地位を有しない旨主張する。

意匠法は、「同一又は類似の意匠について異なつた日に二以上の意匠登録出願があつたときは、最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる」(同法第九条第一項)と規定して、いわゆる先願主義を採ることを明らかにするとともに、右規定の適用については、例外的に、後願の意匠登録出願が後願でなくなる場合として、その先願が取下げられ、又は無効にされたときは、その意匠登録出願は、初めからなかつたものとみなし(同条第三項)、また、先願の意匠登録出願が先願としての取り扱いを受けられない場合として、その意匠の創作をした者でない者であつて意匠登録を受ける権利を承継しないもの(いわゆる「冒認者」)によりなされたときは、意匠登録出願でないものとみなす(同条第四項)旨規定しているから、これら規定の趣旨に鑑みると先願が右の例外の場合の事由に該当しない限り、後願について意匠登録を受けることができないことは明らかである。そうであれば、先願である引用意匠について拒絶査定があり、これが確定したとしても、右の例外の場合の事由に該当するものではないから、引用意匠は、先願の意匠としての地位を失わないというべきである。意匠法第三条第一項柱書にいわゆる「工業上利用することができる意匠」であることは、意匠登録を受ける要件の一つであるが、意匠法が先願主義に関する同法第九条の適用に当たり、先願が拒絶査定されたことをもつてその出願が初めからなかつたものとなるとか、先願としての取り扱いを受けることができない事由としていない以上、拒絶査定された理由の如何に拘らず、引用意匠が先願の意匠たるの地位を失うものでないことは明らかであり、これに反する原告の主張は独自の見解であつて採用することはできない。

また、原告は、審決が引用意匠の図面の縮尺の大小の差異がそれ程極端なものではないとした判断及び引用意匠の開示のための基本方針について示した判断がいずれも誤りであることを主張しているが、これらの点は引用意匠が先願の意匠たるの地位を有することを否定する何らの理由となるものでもない。すなわち、これらの点は、引用意匠と本願意匠との類否の判断に当たり、引用意匠をどのような形態を有するものとして把握するかの問題として検討すべきことであり、<証拠>によれば、引用意匠は、別紙(二)の正面図、断面図と他の図面との間に縮尺の差異があり、また、断面図の断面個所も不定である等の不備があるが、別紙(二)の各図面、特に図面代用写真である平面図、底面図、平面側斜視図、底面側斜視図の記載から意匠としての基本的構成及び具体的態様を十分に把握することができるものであつて、引用意匠における図面の不備は、引用意匠を本願意匠と対比して類否を判断する妨げとなる程度のものではない。

更に、原告は、引用意匠の出願は、意匠法第六条第二項及び第四項に定める方式に違背した重大な瑕疵ある出願であつたにも拘らず、審決が単に意匠法を施行するうえでの細則に係る様式上の瑕疵の問題であると認識しているとして、審決の違法性を主張するが、引用意匠は、その出願手続が無効とされることなく拒絶査定を受けて確定しているものである以上、手続上の瑕疵により先願たる地位を失うものではないから、原告の右主張は失当であつて、採用することができない。

(二)  <証拠>によれば、意匠に係る物品は、本願意匠は、「藁細断機用刃」とし、引用意匠は、「藁切用回転切断刃」とするものであつて、両意匠は、意匠に係る物品が略一致しているものと認められる。そして、本願意匠の「全体の基本的構成」、「具体的態様」及び引用意匠の「全体の基本的構成」、「具体的態様」が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実によれば、本願意匠及び引用意匠の切刃は、ともに薄い円盤の外周縁部に沿つて設けられた環状凸状わん曲部の表面(凸面側)外周縁部付近の全周にわたつて一定の幅で斜状に多数切り込みを入れ、鋸歯状を形成したものであるが、原告は、本願意匠と引用意匠とは、(イ) 切刃が、該環状凸状わん曲部の材厚巾に相当する高さに鋸歯状が形成されているか否か、(ロ) 切刃の先端部は円盤本体の垂直面と一致しているか否かの点において相違する旨主張する。

前掲甲号各証によれば、本願意匠の切刃は、別紙(一)の平面図、底面図及び左右側面図の記載から明らかなように、環状凸状わん曲部の材厚巾の高さに鋸歯状を形成しているのに対し、引用意匠の切刃は、別紙(二)の正面図の記載から明らかなように、環状凸状わん曲部の略2/3の高さに鋸歯状を形成したものであり、また、本願意匠は、別紙(一)のA―A線断面図の記載から明らかなように、切刃の先端部が円盤の垂直面と一致しているのに対し、引用意匠は、別紙(二)の断面図の記載から明らかなように、切刃の先端が円盤の水平面より僅かに下方にわん曲しているもの(なお、切刃の先端の形状については、審決が差異点として、引用意匠は、「仔細に観察すれば前記環状凸状わん曲部の先端周縁は極く僅かに内側に深くわん曲している」と認定しているところである。)と認められる。

原告は、藁細断機用刃や刈取機用刃のような物品の場合は、その刃全体の形状が円盤形であること、切刃がこの円盤の外周縁部に形成されていること、中心軸孔が六角形であること等はすべて物品が固有する属性であり、物品の構成態様はこれらの属性に左右されて決定されるから、右の基本的形態を除いた形態部分に各意匠の創作の要部がある旨主張する。

しかしながら、<証拠>によれば、この種の物品においては、一般にその刃全体の形状は円盤形又は円盤類似の形状であり、切刃はこの円盤の外周縁部に形成され、また、軸孔はその中心部に形成されていることが認められるが、刃全体の形状も、また円盤の外周縁部に形成される切刃の形状、更には、中心軸孔の形状も、それぞれ可変のものであつて、異なつた形状のものとして創作され、その形状の選択、工夫に意匠としての創作性を肯定されて意匠登録されているものと認められるから、原告主張の点がこの種の物品が固有する属性であり、その形態を除いた形態部分に各意匠の創作の要部があるとすることはできない。

そして、本願意匠と引用意匠との具体的態様は、環状凸状わん曲部が全体の径に対しやや幅のある断面が浅い弧状のもので、切刃は、その表面(凸面側)外周縁部付近の全周にわたつて一定の幅で斜状に多数切り込みを入れ、鋸歯状を形成し、その裏面外周縁部をその弧状方向に対して円盤の平坦面と平行状に切削することによつて周縁端部に略山形状の刃を形成し、かつ円盤の中心部に六角形の孔状(前掲甲号各証によれば、審決が「五角形の孔状」と認定しているのは「六角形の孔状」の誤記と認める。)を貫通させたものである点(右事実は当事者間に争いがない。)において一致しているから、看者には、両意匠を全体として観察した場合、概ね同一の形状であると認識され、共通の美的印象を与えるものであつて、切刃が環状凸状わん曲部の材厚巾の高さに形成されているかあるいはその略2/3の高さに形成されているか、また切刃の先端が円盤の垂直面と一致しているかあるいは僅かに下方にわん曲しているかの差異点があつても、両意匠を全体として観察すれば、看者には前記の共通の形態に基づいて類似の印象を与えるものであり、この差異点は、部分的な微差にすぎないというべきである。

したがつて、両意匠は、意匠に係る物品が略一致し、また全体の基本的構成及び具体的態様において略一致するから類似の意匠であるとした審決の判断に誤りはない。

(三) 以上のとおりであつて、引用意匠に係る出願は、意匠法第九条第一項に規定する先願たる地位を有するものであり、本願意匠は引用意匠と類似する意匠であるから、本願意匠は引用意匠と類似し、最先の意匠登録出願人に係る意匠とは認められないので、登録することができないとした審決の判断は正当であつて、審決には原告主張のような違法の点はない。

(秋吉稔弘 竹田稔 水野武)

別紙 (一)

別紙 (二)

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